小説

『リーリエとジーリョ』イワタツヨシ(『ジキルとハイド』)

「そのときのために小型の航空機をつくろうよ」リュカが言った。「リューク、つくれる? 飛行船を追えるような速いやつ」
「サリーに頼んで人を集めてみるよ」
 けれど、そう決めた途端、次の一機がそれから何年も現れない。さらに、彼らには悪い条件が重なった。地球上に到来した大きな気候変動により、星空さえ見られなくなったのだ。

4
 地球は長期に亘って寒冷化する氷河期に再突入していた。
 少し前までは熱帯雨林でジャングルが広がっていたアマゾン川流域でさえ、地球寒冷化によってどこもかしこも雪で覆われ、川も凍りついていた。
 それでも、科学の恩恵により、人々の暮らしは守られていた。例えば、全てが凍りついたアマゾン川流域にも小さな町がいくつも点在し、人々が暮らしている。
 それが彼らによってもたらされたことは明らかだろう。人々の知る彼らの功績は、氷河期が到来する日時を正確に割りだし、長期寒冷化の環境から人々の暮らしを守るための環境づくりにいち早く取りかかったこと。彼らは町そのものをつくった。高度な科学が統合された町だった。
 それらの要因には、アンドロイドの存在もある――その開発が彼らのもう一つの功績――そのアンドロイドの活躍により、それら町の早期的な完成が実現していた。
 地球上に氷河期が到来したのは、西暦2050年。

 しかしその五年後に、カーボネル博士らの開発を功績として称賛していた人間は殆どいなかっただろう。
 その原因は、一部のアンドロイドが反乱を起こしたことにある。
 それは、ジーリョが本性を偽り、企てていたこと。彼はアンドロイド製造の過程で、密かに、あるマイクロチップをアンドロイドに組みいれていた。西暦2051年、彼の計画どおり、そのマイクロチップが起動する。
 氷河期の到来から僅か一年後、西暦2051年に始まったそのアンドロイドの反乱は、次第に人々を巻き込んで膨らんでいき、ジーリョのアンドロイドとそれにつく人間で構成された反乱軍と、それに対抗する人間とそれにつくアンドロイドで構成された軍隊との大戦争へと発展した。
 それは五年後に収束するが、その西暦2056年には、地球の人口はそれらが始まる前の半数まで減っていた。

1 2 3 4 5 6 7 8 9