小説

『リーリエとジーリョ』イワタツヨシ(『ジキルとハイド』)

5
 待ちのぞんでいた次の一機が二人の前に現れたのは、西暦2051年のこと。時空を超えて飛ぶ飛行船。そのランディングライトは青色の光を放っていた。
 すぐに二人はその飛行船を小型機で追いかけた。けれど結論、「十二の星座に行く」というリュカの夢は叶わなかった。追いかけている途中で急にリュカが諦めて、その小型機を降りてしまったからだ。

 丘の大地は何百キロにも亘って続いている。その丘という丘は、雪で覆われている。リュカはそこに小型機を離陸させた。
 後部座席から降りたリュークはリュカに詰めよる。「どうして?」
 リュカは操縦席で、前を見つめたまま答える。「分かったよ」
「何が?」
「僕をつくったのはジーリョさ」
「それがどうした?」
「大事なことだよ」
「今それが大事か?」
「少し前から何かおかしなことが僕の中で起きている」
 それについて、自分の中で、これまでの自分が失われ、全く別の人格が誕生しているようだ、とリュカは思う。それはある日を境に起きた。突然、体の中で変化が起き、その短い間で、自分の半分が死に、その空いた空間に新しい人格がつくられた。それから数日の間で、その「かき替え」は少しずつ進んでいる。
「リュークの方は何も変わらない?」
「そうだな」
「じゃあリュークをつくったのはリーリエだね」
「俺はどうすればいい?」
「どうもしなくていいよ。ただ僕は」と、リュカは言う。「このままかき替えられることを望む」
「それでどうなる?」
「ただ僕は、ジーリョの指示に従う」
「ジーリョの指示って?」
「まだ分からないよ」と、リュカは少し悲しげに言う。「でもきっとこれから良くないことが起きるよ。ジーリョは悪い側だからね」
「悪い側の指示に従うのか?」
「そうだよ。もしかしたらリュークのことを殺してしまうかもしれない。だから僕の傍にいない方がいい」
 そう言いながらリュカは操縦席から降りた。リュークは呆然としていた。
「行くよ」

1 2 3 4 5 6 7 8 9