小説

『リーリエとジーリョ』イワタツヨシ(『ジキルとハイド』)

 しかし邪魔をする人間もいる。いつも彼の前に現れて大きな壁となって立ちはだかったのは、時空を超えて飛ぶ飛行船に乗った者たち。赤のライディングライトの光を照らす飛行船に乗っていたのは、カーラ。彼女は仲間を連れている。レベッカに、マイル。それから青の光の、ユッシ。藍の光の、リーリエ。
 手に入れても奪われて、また奪いかえす。その繰り返し。

 西暦2130年。
 リュカは、夜空に紫のランディングライトの光を照らす飛行船を目にする。紫は、彼が初めて目にする色。

 その飛行船を目にした直後、ジーリョからの伝達がある。
 しかしその伝達は、初め、「指示」ではなく、ジーリョの記憶の一部のようなもの。

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 太陽の反対側に地球と同じような星があり、そこには人間にとてもよく似た生命体が存在する。
 その生命体は、卵生で、殻を持った卵を陸上に産む。その卵が孵化するまで百年の歳月を要する。孵化後の寿命は、平均で約七十歳。つまり、孵化後の寿命より孵化前の卵でいる時間の方が長く、卵を産んだ母親は自分の子どもの姿を見ることができない。
 卵から生まれてくる子どもは、その親に関係なく、孵化するまでの百年の間に、卵と身体的に接触した他者の形質を受け継ぐ。その遺伝形質の情報量は、接触していた期間が大きく影響する。

 時期に、その星は太陽に飲み込まれてしまう。そういう運命にある。長い間、その星の人間はその危機と向きあい生きてきた。
 希望と僅かな可能性を信じ、一部の人間は、移住が可能な別の星を宇宙に探しもとめる。
 やがて彼らはその存在を確認する。太陽の反対側にある、地球という星。しばらく、彼らは地球の偵察を続ける。地球について、様々なことが分かってくる。

 「地球移住計画」の議論における論点は、時期と方法。
 その星の人間は、地球人の「受けいれ」を望んでいる。少なくとも、誰も「戦争」は望まない。その星は地球と比較して、人間の知能も高く、科学技術水準も高い。しかし彼らはこれまでに戦争を経験したことがない。その星には、現在にも過去にも「悪人」が一人もいない。
 あるときその星で、科学者の一人が、「地球では近い未来に大きな気候変動が起こる」と推測する。それは、長期にわたって寒冷化する氷河期の再到来。

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