「かくれているネズミが、おどろいてにげだすのよ」と、ゆみこは考えました。
ボールは思ったよりもよく飛んで、柱神さまの面に向かって一直線。
ひもで吊るされただけのお面は、床に落ちてしまいました。
「あっ! かみさま」
ゆみこが叫ぶと、おじいちゃんの家が「みしっ」と音を立てました。
なんだか重たいものが屋根にのしかかったみたいです。
気のせいか、部屋も暗くなったように思いました。
床に落ちたお面は顔を下にしたまま、かすかにゆれています。
その裏にも、柱にも、ネズミはいません。
どういうことでしょう。
床から拾って元に戻した方がいいのかなと、ゆみこは動くお面を見つめます。
どこからともなく、ささやき声が聞こえました。
「二階の窓、開いておるぞ。閉めろー、閉めろ」
あっ、とゆみこは声をあげました。
おじいちゃんの車を見送ったあと、窓を閉め忘れたのを思い出したのです。
「ドロボウが入って来ちゃう」
どこから聞こえてくるのでしょう。
かすれ声は、「窓、閉めろー。窓、閉めろー」と、くり返します。
でも恐ろしくって、今は二階になんてとても一人で上がれません。
「一人はいやだよ。ママ、おじいちゃん、早く帰って来て」
そう口にしたとたん、夏なのに寒気がしました。背中が逆毛立ちます。
ちょうどそのとき、開いた窓から「オドロゲ」という化け物が入って来たのでした。
オドロゲは夜、だれかが一人で家にいるところをねらって、悪さをするのが大好きなのです。
入って来ないようにするには、戸じまりをしっかりしておくしかありません。
ゆみこはまだ化け物のことは知りませんでしたが、天井がぎいぎいと鳴るのを聞きました。
耳をすませると、音はゆっくりと階段の方へ向かっています。
ゆみこはあまりの怖さにふるえ上がりました。
二階から誰かが下りて来るなら、部屋の真ん中にいるとすぐに見つかってしまいます。
となりの家へ逃げるか、どこかにかくれないといけません。
先ほどから聞こえてくる声が、低い風のうなりとともに、吐きすてるように言いました。
「けがらわしい化け物め。とうとう入って来よった」
化け物が家の中に? ゆみこは足音をたてないようにして、台所へ向かいました。
勝手口から外に出て、となりの家まで走ろうと考えたのです。