小説

『ゆみこと柱神さま』はやくもよいち(『天道さん金の鎖』)

手でこすっても、取れません。

石けんで洗っても、落ちません。

ゆみこはあわてました。

「どうしよう、どうしよう」

しばらくだまって考え込んでいたおじいちゃんは、箪笥から白い布を取り出して、小刀で半分に裁ちました。
そうしてこさえた手ぬぐいで、ゆみこの顔をごしごしと拭きます。

不思議なことに、真っ白だった布はみるみる黒くなって、真っ黒だった顔がきれいになっていきました。

「なんのためにこんなことをしたの?」
元どおりになった顔をなでながら、ゆみこは神さまのいたずらに文句を言います。
おじいちゃんはひざを叩いて笑いました。

「じゃがな、ゆみこ。柱神さまは、ただいたずらをしたわけではないよ」

そう言われても納得がいきません。
ゆみこはほほをふくらませながら、首をかしげます。
おじいちゃんは顔を拭いた布を広げて見せました。

「あっ、柱神さま」

白い手ぬぐいの真ん中に、台所の柱にかかったお面そっくりのぶさいくな顔が、黒く、くっきりと写し出されています。
猿みたいで、しわだらけで、口なんて横一直線のみぞにしか見えません。

でも柱神さまのお面にあいているふし穴とは違い、その目は細い線になっていました。
少しだけ目じりが下がっています。
ゆみこには、神さまがにっこりと笑っているように見えました。

「これを持って帰ったらいい。柱神さまが、ゆみこの家も守ってくださるにちがいない」

おじいちゃんから手ぬぐいを受け取ると、ゆみこはそれをたたんで、ママが持って来たカバンの上に置きました。
こうしておけば、一緒に家へ持って帰ってくれるでしょう。

次の日、ママは退院しました。

おなかが痛いのもすっかり治ったからです。
おばあちゃんも帰ってきました。

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