小説

『ゆみこと柱神さま』はやくもよいち(『天道さん金の鎖』)

呼びかけても、返事がありません。
ただの無表情で醜い面に戻ってしまったようです。

「神さま、くっついちゃってるよ。はなれて」

ゆみこはとうとう、おじいちゃんに飛びついて泣き始めました。

たぶん信じてもらえないでしょう。
それでも泣きながら、おるすばんの間に起きた柱神さまと化け物のことをぜんぶ話しました。

おじいちゃんは話を聞きながら、床に散らばった産着や、黒い汚れに目をやります。

「そりゃ、えらくたいへんだったな。柱神さまが守って下すったか。ゆみこも、ようがんばった」

ゆみこが話し終えると、やさしい声でなぐさめてくれました。

「ゆみこは神さまに気に入られたのかもしれんな。どれちょっと、お願いしてみようか」

いつものように胸の前で手を合わせます。ゆみこもまねをして、手を合わせました。

「柱神さま、どうかお願いします。いつもの柱にお戻り下され」

おじいちゃんは、ゆみこのかぶる柱神さまのお面に向かって頭を下げました。
ゆみこもおじぎをします。まるで二人で拝み合っているみたいです。

「これではゆみこが嫁に行けませぬ」

柱神さまはあいかわらず、何も言いません。

ゆみこが不安に思っていると、ふいにお面がふるえます。
おどろいたゆみこが顔を上げた拍子に、柱神さまはポロリとはがれ落ちました。
おじいちゃんはそれを両手で受け止めます。
そのまま台所へ持って行って、木彫りのお面を柱にかけました。

戻ってきたおじいちゃんは、ゆみこの顔を見て目を細めます。

「柱神さまは、いたずら好きでいらっしゃる」

あわてて鏡をのぞき込むと、顔ぜんたいが煤をぬりたくったように真っ黒でした。

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