小説

『オトリとサクラ』はづき(『ヘンゼルとグレーテル』)

 リトのケージは玄関に置いていた。
「食えよ」カレヤは強引に口に入れてきた。
 今までにない不味さで、倒れそうになった俺の腕をカレヤは掴み引きづった。
「おい。痛てぇな。離せよ」連れてかれたのは玄関だ。サクラもいた。こいつも同じ部分を食ったのか?
「さぁ見て見て」
 カレヤがはしゃぐ。回想はまたサクラ。金髪で派手な頃の。ケージの前に立っている。叫び声もする。もちろん俺の。その瞬間サクラは思いっきりケージを蹴った。中から出て来たリトもそのままその足で蹴り飛ばしてしまった。
「サクラ?」
 疲れ果てた様子の父親が話しかけてきた。
「どうしよう。私が」
 目から血を流し動かないリトを掌たサクラは泣いていた。
 父親はそんな有様を目にし、しばらく黙り涙を流した。
「リト、こんな家でごめんな」そこで回想は終わった。
「そんな」言葉が詰る。
「そうしてサクラは家を出て行きました。めでたしめでたし」
 カレヤはそう言いながらサクラを殴った。
 倒れたサクラに擦り寄ることも庇うことも出来ず、ただ殴られ続けるのを見ていた。
 甲高い声は俺を不快にさせる。
 サクラ、そんな泣くなよみっともない。お前のそんな姿見たくない。
 俺はさ、お前は幸せ独り占めしているようで羨ましたかった。キラキラして鳥籠に入ってなんかいなくて。何やってんだよ。無様だよお前。
「どうして」
 咽び泣きながら口から血を流してるサクラに俺は聞いた。
「私はオトリなんて1日でも1秒でも早く消えて欲しかった」
「は?答えになってねぇよ」
「簡単だよ。あの机と同じ。ストレス発散」
 代わりにカレヤが答えた。
「ストレス?」
「不味いもん食って散々己を見てきたろ?お前が与えたストレスをこいつが僕にぶつけてたんだよ。最初は軽くケージを蹴る程度。それがエスカレートしてあのザマ。僕はこの女に殺されたんだ」

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