小説

『オトリとサクラ』はづき(『ヘンゼルとグレーテル』)

「許せないでしょ?」
「あぁ。笑った時、幸せに眠った時、リトを思って苦しくなれ」
 サクラは俯く。
「俺もそうなるし。それに、そうやってでも俺は」
 今度は俺が黙った。
「何?」
「俺はお前に生きていて欲しい」
 サクラは何も言わなかった。
「よし。おとー、探しに行くか」
 玄関はすんなり開き、父親とも割とすぐ再会出来た。情けない位泣いていた。
 車も何故か無事で、これもあいつの仕業なのだろうか?
「帰ろう。三人で」俺は2人に言った。
 帰りの車中も無言で、サクラはその日の内にアパートに戻った。
 大して会話もないまま。
 「オトリ、行かないか?」
 数日経って父親がまた誘う。
「行かないよ。もう」
「そうか」
 応えた顔が笑っている。そんな気がした。
 サクラ、また会いに来てくれるか?
 時間かかってもいいから。いくらでも待つからさ。それまで頑張るから。
 聞きたいんだ。
 そのキーキー甲高い、やたら耳障りな声をまた。

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