小説

『オトリとサクラ』はづき(『ヘンゼルとグレーテル』)

 毎晩決まった時間になっては自分で札を用意し、俺達を呼んだ。誰よりも張り切っていた。
 最初は投げやりにやっていた俺も、単純な勝ち負けに一喜一憂しだし夢中になっていった。けどそれも一週間程しか続かなかった。学校に行けば他人達が俺をいいようにする。俺はそのストレスを家でぶちまける。
 やってられるかと吐き捨て、あいつが用意した札を捨てた。これはそん時の回想だな。こうやって客観的に見ると、悲しい顔してたんだな、こいつら。この頃から休みがちだった学校には全く行かなくなり、更なる孤独と不満をまとった最悪な王様になった。
 父親とは何度もぶつかった。お父さんなんてもう何年も言っていない。ぶつかる度に俺は暴れた。家来のくせに、そう思っては物をそこらじゅうに投げぐちゃぐちゃにし、壁に穴を開け、家中ガムテープだらけになった。 素手でガラスを割れば廊下が血だらけ。家を燃やそうともした。
「あーもー。なんでこんなん見なきゃいけないんだよ」
 それでも食べたい。情けない思いと空腹で、喚きながらその辺の柱に噛り付いて食った。
「くそっ消えろよ」回想を手で振り払おうとしたって無駄だ。すり抜けるだけ。
 いつだったか自転車の鍵が見つからず母親のせいにした。その時のか?母親の髪を引っ張り蹴っている。それでも気が済まず包丁を持ち出し脅していた。
「殺される。殺されちゃうよ」母は叫んでいた。
 結局は俺のカバンにあったんだ。犯人はカバンで俺は悪くない。謝らなかった。鍵がない、ただそれだけでこの世の終わりみたいに思えたんだ。
 焦りしかなかった。鳥籠から本当は出たい。そう全身で叫んでるのが、俺には分かる。

 それからは、眠くなったらその辺で寝て、起きては食べ、その度似たような回想を嫌という程見た。
 時折カレヤが顔を見せニヤニヤ楽しそうにしてはまた消えて。
 食べても食べても満たされず、2人してげっそりしだした。サクラを気遣う程の余裕もなければ、俺は優しくもない。弱っているサクラを素通りし、ふらついた足取りで行ったのはらサクラの部屋。ぼーっと見渡し机が目についた。埃だらけだな。まぁいい。これでも食うか。
「あ?」埃を払って出てきたのは。
「なんだよこれ。気持ち悪い」
 机は傷だらけだった。とりあえず空腹に耐えれず千切った机を口にした。当然マズい。回想に現れたのは中学生のサクラ。
 椅子に座り両手でハサミを持ち、思いっきり机に突き刺した。そのまま力強く動かしガリガリと傷を付けている。何度も。

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