小説

『オトリとサクラ』はづき(『ヘンゼルとグレーテル』)

 カレヤは適当に千切った壁を俺達に渡してきた。
 これもまた吐きそうな味だ。2人して口を押さえた。
 すると出て来たのはまた俺。いい加減にして欲しい。なんなんだこれは。目の前の自分は中学生だ。
変わらない。体だけがでかくなってるけど、
 こうしてみるとさっき見た小学生の俺とまるで同じじゃないか。やってることが。
 少し声変わりした声で大声をあげて壁をぶっ叩いている。おいおい何そんなに苛立ってんだ?あーそっか。学校行きたくないんだよ。
 これは朝の風景か。
 いつからか他人と俺の間には壁があった。違う、外に出れば鳥籠に入っていたんだ。誰にも見えない透明な。
 いつになっても出られない。出ようともしない。だからぶつかれないんだ。揉めたくないから。一度揉めたら鳥籠に入ってる方が完全不利だろ。一方的にやられてしまう。
 そんなの嫌だ、恐いじゃないか。戦いを挑む勇気なんてなかった。
 回想はまた数秒で消えていった。
「カッコ悪」サクラが吐き捨てるように言った。
「は?おい」
 言い返したい。怒鳴り散らせ。だってこんな生意気な奴。なのに元気が出ない。それより今は腹が減ってしょうがない。
 不味いのに食べなきゃ飢え死にしそうだ。
 悔しい。サクラはいつだってそう。腹ん中じゃ俺を見下してる。
 お前の甲高い笑い声が聞こえる度、部屋の壁を殴って黙らせた。そうすれば簡単。すぐに静まり返る。俺はこの家では王様だったから。
 両親は俺の事を互いのせいにして、当然不仲になり、あげく離婚。母親は出ていった。
「くそっ。ここは美味いか?」
 適当に畳を千切って口に入れた。
「なんだよ。なんでどこも不味いんだよ」
 今度は家族四人出てきた。そりゃ笑い合ったこともある。俺がどうしようもないから、両親は第三者にアドバイスを受け、家族で毎日時間を共に出来るものを考えた。中3の頃。
 それは百人一首の坊主めくり。四人でこたつを囲んで。サクラが一番嬉しそうだった。

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