小説

『オトリとサクラ』はづき(『ヘンゼルとグレーテル』)

「食べていいって、まさか」
 サクラはそっと壁に触れ千切った。
「は?馬鹿力だな」
「食べれば?」そう言い差し出した。
「壁だぞ。食えるかよ」しかしそれが不思議と美味しそうに見え恐る恐る口にする。
 サクラも続けて口に入れた。
「マズ」一口食べた瞬間、目の前に現れた光景にビビった。
「なんだよ。これ」
 それは小学生の俺。泣き喚きながら何か叫んで両親を困らせている。馬鹿みたいに物をねだってるんだ。俺は昔からわがままで両親は手を焼いていた。
 泣きじゃくり、足をばたつかせる哀れな俺は数秒したら次第に消えていった。
「どうしたの?真っ赤だよ」
 カレヤが知らない間に側にいた。 俺は顔が熱くなっていた。
「今のはなんだよ?」
「え?自分じゃん?面白いでしょ?この家はクソみたいな思い出でできてるから激マズなんだ。そう思わない?サクラ」
「なんでサクラの名前知ってんの?」
「さっき自己紹介したよ?」
「そんなんしてないよな?」サクラは目を反らし俯いた。
「そうだ。ねぇこれ、綺麗でしょ?僕が作ったんだ」
 カレヤが自慢げに見せてきたのは、野球ボール位のサイズをしたガラス細工だった。
「マモルも綺麗だって褒めてくれたよ」
「来たの?お父さん」
「あいつの名前も知ってんのかよ」
「あいつ?君はお父さんって言えないの?」
「話すり替えんな」
「そう興奮しないでよ」
 状況が理解出来ない。けど思考が空腹に奪われる。
「ほら、好きなだけどうぞ」

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