振り返ればサクラも驚いた表情で立ち竦んでいる。
「お前ちょっと行ってこいよ」
そう言い終わるより先に、サクラはそそくさと向かっていった。今度は俺がサクラを追う形で後ろを歩く。
玄関を開け中に進む。匂いの先は台所で、そこには右目に眼帯をした年老いた男がいた。
「いらっしゃい。二人共お腹空いたでしょ?食べたら」
出されたのはカレーだ。おかしい。コンロも苔で覆われてる。どうやって作ったんだよ。
「僕はね、カレー屋のカレヤって言うんだ」
「そう、ですか」
そいつは見た目はジジイだが、話し方がえらく幼い印象だった。
ヤバイ奴かと思いつつ目の前に差し出されたカレーに心を奪われガッついた。
「あ、カレー屋って言うのは冗談だよ」
ハハッと愛想笑いをしながら、俺は夢中で食べた。
「あれ?おいしくない?」
俺とは違いサクラは一口食べスプーンを置きカレヤの眼帯を見つめていた。
「これ?ちょっとやられてね」サクラの視線に気づいたのかカレヤはそう答えた。
「それで?なんでこの森に?」
「それは」
「どうせ心中でしょ?そんなのいつだって出来るんだからさ、ゆっくりしていきなよ」
そう言われた所で腹が鳴った。
「おかしいな。食べたばかりで」
「あ、この家さ、思い出で出来てるんだよね」
「だから?」
「お腹が空くなら食べていいよ」
カレヤはスキップして台所から去ろうし、俺は慌てて廊下に出た。
「いない。てか本当家じゃん。どうなってんの」
「思い出で出来てるって」
ああ、そうだこの声。
サクラの声は独特で、高いというか耳に残るというか、甘ったるくて媚びた声。キレイな声と褒める奴もいたが、俺にはそうは感じない。この声が大嫌いだった。見た目や雰囲気がいくら変わっても相変わらず声はそのまま。