「そうだっけ?」冷たく返したらそれ以上父親は何も言わなかった。
「なんだよ」
舌打ちをし外を眺めた。そういえばいつもと違いやたら山奥に来たな。見渡せば深緑が広がる森が見える。
「ずっと三人でいような」
運転席に目をやるといつもと様子が違う。明らかにおかしいと感じた。
「おい、なぁ、おい。落とせよスピード」
一直線に向かう先はガードレール。更に先は崖。
「おい。辞めろって」
大声で叫び、ハンドルを横から奪い止めようとした俺を、後からサクラに抑えられ邪魔された。その行動に思わず驚き、振り払おうとしたが間に合わなかった。
気づけばサクラと2人。父親も車も消えていた。
「あーもーどこなんだよ」後ろで鼻をすする音が聞こえる。
「は?お前泣いてんの?鬱陶しい。どっか行けよ」
それでもサクラは何も言わない。
「お前もグルで心中かよ」
遂にやりやがった。サクラも一緒に。何だよ、お前幸せそうだったじゃんか誰よりも。
お前が嬉々として笑う度、嫉妬するのが俺だった。頭を搔きむしりながら思い返す。
25になった俺は、起伏ない毎日を父親と過ごす中、いつからか心中のお誘いを受けるようになった。感がいい俺は気づいてたんだ。
「どこだよ。ここ」ただただ歩き続けサクラは黙ってついてくる。
「くそっ。さっきからやたら腹が減る」
食にこだわりもない上、少食の俺がこんなにも飢えた思いをするなんて初めてだ。
空腹に耐え切れそうになくなった時、匂いがした。食欲をそそる匂い。
それを頼りに足早に草木をかき分けた。
「なんでこんなところに」
辿り着いた先に見えたのは一軒の家。ずいぶんと古臭く今にも壊れそうな。
「マジかよ」苔で全体を覆われていたが、それはまさに俺の家そのものだった。