まだだ、あいつがいなくなってもまだ腹が減る。
「あーあ。ったく」
俺達はすぐ側の部屋の畳を口に入れた。
「嘘だろ?」
「嘘でしょ?」
「舌が馬鹿になったか?」
2人して顔を見合わせた。
「これは割と、いやすごくうまいな」
「うん。美味しい」
昔はここで、四人一緒に寝ていたな。見えたのは幼い頃の俺達と両親だ。
日曜の朝になると俺達2人は布団の周りを追いかけっこしたんだ。両親は寝転びながら笑顔でそれを見ていた。そんな回想だった。
「楽しかった。本当に」美味しくて止まらない。食べるのも涙も。
続いて見たのは坊主めくり。まだやり始めた頃の。楽しそうだな。皆嬉しそうだな。
涙がただ流れてくる。
「腹いっぱいになったか?」
「うん」
あいつは、都合良く解釈すれば俺達の為に現れたのかもしれない。
俺はこの家の癌だ。不味くさせたのは俺で、こんな事がない限り気付きもしなかった。
気付かないままだったら、あいつに食われてたかもしれないな。
「お父さん、食べられちゃったのかな?」
「いや、いるよ。この森のどこかに」
「なんで分かるの?」
「だから俺は直感がいいんだよ」
「私はダメ。あいつ信じた」
「そうだな」
「カレヤ、会いたかったのに。怖くて目を背けてばかりだった。でも結局偽物で。食べられたくなかった。心中したくせに」
「俺だって、いざとなったら阻止しようとしたし」
サクラは少し黙った後、聞いてきた。