「この森さ、見かけはキレイだけど下には色んな物が埋まってんだ。ゴミや、時には人間だって埋めに来やがる」
「もういいから出してくれよ」
「ダメだよ。食べるんだから」
「何を?」
「お前らだよ。不味い思い出いっぱい食わして弱ってきたら。最高のご馳走さ」
「くそっ」
俺は生まれて初めて他人を殴ってしまった。こいつは人じゃないかもしれないけど。
「え?こいつ、よえーじゃん」思いの外、奴は気絶した。
「出るんだ。ここから」
またサクラの手を引っ張り家中を駆け回る。勝手口も開かないし物を投げても窓ガラスは割れない。その間もずっとサクラの手を掴んでいた。なんだか誇らしかった。
「食おうとすると簡単に千切れるのに、なんで逃げようとすると千切れないんだ」
「壁に穴を開けて逃げようとしても無駄だよ」
どこからか奴の声がした。
「俺囮になるから、お前だけでもどうにか」
「昔もさ、1度だけ囮になってくれたよね」
「え?」
「2人で留守番してた時、あの辺に変な影?みたいの。出てきて」
サクラは天井を指差した。
小さい頃、1度だけ留守番をした事がある。その時見つけた”ある影”は、まるで天井から襲ってくるようで2人して怯えたんだ。
「でも気のせいだったよね」正体はただのシミだった。
俺はあの時サクラを守った。たかが天井のシミ相手に。いや、まさか。
「あいつ、あの時の影なんじゃ」
「まさか」
「だって今ないだろ?」
ずっとあったあのシミがこの家の天井にはない。
「そうだ。あいつが持ってたガラス、あの中にあったんだよ。黒い塊が。本体か?あれを壊せば」
「これかな?」
奴が例のガラス細工を手にし現れた。