「ラポさん。最後の料理ってどういう意味でしょうか」
「意味?今食べているのが最後の料理だよ」
ラポはジョバンニに顔を向けることなく言った。ラポは何か隠している。リーも何かを隠している。そう思っても何もできない。「カムパネルラがいてくれたら僕はもっと勇気を出せるのに」ジョバンニはつぶやいた。
魚料理を食べ終えるとまたラポは壁を通り抜けて行った。ジョバンニもついていく。
天井にみっしり張り付いた電球から小さな光がでていた。リーがまた壁の中から現れると思っていたら金色の髪の女性が料理を持ってやってきて、テーブルの上に静かにおいた。ジョバンニは「あっ」と思わず声を出した。あの画面に写っていた後ろ姿の女性と同じ色の髪だったからである。料理を持ってにこやかにやってきた女性は若くて大きな青い目をしていた。「お人形さんが人間になったみたいだ」ジョバンニは何故か恥ずかしくなって目をそらした。
「おー。おー。ジェシー」
ラポは立ち上がってジェシーに抱きついた。
「大きくなったなあ。前あった時はこれくらいだっけ」と自分の腰を指すのであった。
「お久しぶりです。ずっとお持ちしておりました。私もリーも。やっといらして下さいましたね」
「待たせた。待たせた。ここに来る理由ができるまで。心から詫びを言おう」
「いえ、いえ。ラポ様を責めるつもりは御座いませんので。そちらがリーが言っていた素敵なお連れ様ですね。これまでの料理はいかがでしたか」
ジョバンニは下を向いたまま頷くのがやっとだった。
「ラポ様、ジョバンニ様。本日の”最後の料理”も本ディッシュで終わりになります。最高の素材を使った肉料理となります」
「ジェシーとリーの料理だね」
「はい」
ジェシーの声はとても小さくなっていた。
ジェシーが壁の中に消えていった。
「さあ、ジョバンニ君食べ給え食べ給え」
蓋をあけるとそこには大きな肉の塊があった。力をいれることもなく肉は切れていく。魚の時と同じように口の中でとけるように消えていく。あまりの美味しさにジョバンニは夢中になった。
また壁に画面が現れ映像が流れた。カムパネルラとジョバンニが写っている。「僕もあの蠍のように、本当にみんなが幸せならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」カムパネルの眼に涙が浮かんでいる。「そう、僕だって。僕だって」ジョバンニはつぶやいた。