小説

『最後の料理』NOBUOTTO(『銀河鉄道の夜、注文の多い料理店』)

「あの店が君に見せたかったんだろう。ジェシーはリーを殺したんじゃない。料理したんだ。彼らは最高の料理をするために作られた。毎日技術を磨く、そして自分自身を最高の素材にしていくんだ」
「だから、最後の料理。リーさんの最後の料理」
「そう、そしてジェシーには最初の料理だね」
 ジョバンニは言葉が出なかった。
「さて、着いた」
 二人は船長室に戻った。ラポがこれからどこに行こうかと聞いた。
「ラポさん。ジェシーさんはどうなるのでしょうか」
「料理の腕を磨く。そして、塔の中の人からジェシーの後を継ぐ者をもらい終わりになる」
「けれど、塔の人はいないのですよね。それにもし、ジェシーさんを継ぐ人がいたらジェシーさんもリーさんのように」
 ジョバンニはじっと考え込んでいた。
「カムパネルラと約束したんです。誰かのためになろうって。そのためには死んでもいいって。ジェシーさん達を救う、その為の科学。今の僕は何もわからない。けれど僕の命に替えてでも」
「ジョバンニ君。簡単にできることは何もない。しかし、絶対にできないということもありはしないのだよ」
「長い時間がかかってもいい。僕ができれば。誰かのために生きていければ。けれど、僕は帰らないといけない」
「さて、ジョバンニ君、これを見給え」
 トンボの眼をひとつなぞると眼は天井に上がっていき家を映し出した。入り口にある空箱に紫色のケールやアスパラガスが植えてある。ジョバンニの家だ。扉が空いて部屋の中が映し出された。ベットにはお母さんが横たわっている。そして、その横にジョバンニが座っていた。
「僕がいる」
「ジョバンニ君。銀河鉄道から降りた君はちゃんと家に帰った。けどみんなは銀河鉄道から降りて魂の世界に行った。君はあそこで正しいことをやりたいとその切符に願った。そしてもうひとりの君は残った」
「カムパネルラは」
「彼も魂の世界に行ったよ」
「カンパネルラは魂の世界に行った。もう1人の僕はお母さんといる。じゃあ、僕は帰るところがないわけですね」
 ジョバンニはまた黙り込んだ。
「さて、出発しよう。そうだ、君の好きな所へ行ける部屋も用意しないといけないな」
 トンボの眼が一斉に飛びしていて部屋のあちこちで星を写し始めた。

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