小説

『最後の料理』NOBUOTTO(『銀河鉄道の夜、注文の多い料理店』)

2.レオニオス星
星に降り立つと宇宙船で見た世界が広がっていた。ジョバンニの町で一番広い通りの何倍もある道をラポは跳ねるように歩いて行く。ジョバンニは必死になってついて行く。
 大きな建物が並んでいた。どの建物もガラス張りであった。硝子ばりの建物の中では、一列に並んだ人達がかけっこをするように床を吹いていた。向こうの建物では何人もの人が屋上から釣るされた籠に乗って硝子を拭いていた。
 見たこともない道具を使っている。ラポに何の道具か聞きたかったが、どんどん歩いていってしまう。初めて見るものばかりなのでで、立ち止まり覗いてはまたラポを追いかけて行った。
 急に建物がなくなり、道の両側に野原が広がった。いや、野原ではなくこれは畑に違いない。終わりが見えないほど先にまで続いている。小さな実に包まれた木々がずっと先まで連なっている。背中に担いだカゴに実を摘む人があちらこちらにいた。赤と黄色と青が入り混じったお花畑も広がっていた。そこでは、霧状の水を花にかけている人達がいた。きっとこれは害虫駆除をしているのであろう。この星に来てからジョバンニの目に入るのは働いている人ばかりであった。働き者の星なのだとジョバンニは思った。
 ずっと先にいるラポのそのまた向こうに小高い山があり、山の上には宇宙船でみた大きな三角標が立っていた。宇宙船で見たときに想像していた以上に大きな塔であった。ただ、三角標は輝いていなかった。その三角標は緑の蔦で覆われていた。汚れ一つもない綺麗な町なのに、そこだけが朽ち果てているように見えた。
 ラポはずっと遠くまで行っていた。ジョバンニは慌てて走っていく。熱くもなく寒くもなく少し香りのよい風がジョバンニを包み込んだ。素敵な町だと思った。ジョバンニの町は少し息苦しかった。自分の落ち込んだ気持ちのせいでもあったのだろうが、この星にいると自分の心の中の汚れや言葉にできないわだかまりが、優しい空気に乗って流れていくような気がする。素敵な町だ。走りながら何度も思った。
 畑を抜けたところでラポは立ち止まっていた。そこには教会のような建物があった。屋根の中央に小さな塔が立っている。教会であればそこに鐘があるだろうが小さな窓しかなかった。建物の入り口らしい広い扉の前にラポは立ち止まっていた。その扉の上に「クチーナ」と書かれた看板がかかっていた。
 看板を指しながら嬉しそうにラポが言った。
「さあさあジョバンニ君。ここが今の宇宙で、今?昔?とにかく宇宙一美味しい料理店クチーナである」

3.最後の料理
 ラポとジョバンニは料理店クチーナの中に入っていった。部屋の真ん中に大きなソファーがあった。ラポがそこにドンと座りジョバンニを手招きした。ジョバンニもラポの横に座った。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11