小説

『最後の料理』NOBUOTTO(『銀河鉄道の夜、注文の多い料理店』)

「あの、泉全体で遺伝子管理をやっているという所のかい」
「はい、昔はそうでしたが遺伝子の種類を増やし後は泉と魚達に任せる。そして、最後に選ぶ。それがいいようでして今は管理ということはやっておりません」
「なるほど。自然が一番というわけか」
 ジョバンニは何を言っているのか全くわからなかった。しかし、その葉から出てくる刺激的な香りがジョバンニの空腹感をまた何倍にも膨らませるのであった。
 ラポの真似をしてフォークとナイフで葉を開くとそこには明るい色の魚が3匹いた。ラポの魚はジョバンニの川にいるような地味な色をした魚3匹である。恐る恐る食べてみる。
 甘かった。砂糖菓子の何倍も甘いけれど、口の中で直ぐに甘みが消えて苦味が出てこってりした柔らかい魚肉が口の中に溶けていた。ラポがじっとみていた。
「ラポさん、食べますか」
「いや。ジョバンニ君のものはジョバンニ君が一番合うのだよ。それがここの料理だ」
と言ってもまだ物欲しそうにみている。
 壁に銀河鉄道の黒服の青年と姉弟が映し出された。賛美歌が流れている。そして賛美歌を多い被すように新世界交響が部屋に流れた。ラポも手を止め目を閉じて静かに聞いていた。
「神さまはあの人達を幸せにしてくれたのだろうか」
 ラポはまた料理を夢中になって食べている。
 その時、ザーという音がして画面が一瞬消えた。そして、どこかの部屋の中が写った。女性の後ろ姿が写っている。女性の前には大きなテーブルがあり、その上に誰かが横たわっている。全体が薄暗くてよくわからないが、リーがかぶっていたような赤い大きな帽子を被っていた。後ろ姿の女性は大きな鉈をもっていた。そして、その女性はその鉈を横たわっている男性めがけて振り下ろした。
「うわー」ジョバンニは叫んだ。その声に驚いてラポも画面を見たが、赤い蠍火が煌めいているだけだった。
「ラポさん、ラポさん、女性が誰かを、きっとリーさんを殺そうとした。ラポさん見ませんでしたか」
「食べるのに夢中でね。人殺しね。この店は君を選んだ。人殺しかどうかわからないが、きっと君にとって大切な何かなんだろ」
 ジョバンニは小さい頃に呼んだ「注文の多い料理店」を思い出した。そして、「最後の料理」という今日のメニューが心にひっかかり始めた。

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