小説

『最後の料理』NOBUOTTO(『銀河鉄道の夜、注文の多い料理店』)

 壁の中からリーが料理を運んできた。
「スープと前菜です。さてお腹の準備をして下さい」
「うん。うん。リーの料理はこの言葉から始まらなければいけない。我が口、我が喉、我が腹よ。久しぶりのご馳走を受け入れる準備をしたまえ」
 そう言ってラポはスープと前菜をスプーンとフォークで代わる代わる口に運んでいた。ジョバンニもラポのまねをして順番に口に含んでいった。スープは体を温めた。見たこともない野菜は口のなかでとろけていった。食べるほどにどんどんお腹が空いていく。
 その時壁の一面にジョバンニの町が写された。時計店の前で星座早見を見入っているジョバンニが写っていた。画面の中のジョバンニが走り出した。「星座をずっと見ていたかったけどお母さんに牛乳を買わないといけなかったんだ。けどもらえなかった」
 画面の中のジョバンニは黒い丘に立っていた。銀河ステーションという声が流れてきた。そうだここから僕の旅は始まったんだ。「ここが始まりだね」とラポが言った。そして、ジョバンニが食べ終わるのを見ると立ち上がり「次の料理に行きましょう」と壁の中に消えていった。ジョバンニもついていく。
 次の部屋は薄青の照明の静かな部屋だった。席に座るとリーが料理を運んできた。
「いかがでしたでしょうか」
「最高。最高。吾輩のお腹が宇宙一おいしい料理を思い出して、はやく次をくれと口まであがってきたよ」
 リーが微笑んだ。
「さっきの部屋の壁に、僕の町が写ってました。どうやって、いや、なぜ、僕の町がわかったんですか」
「ジョバンニ様。料理は舌で味、鼻で香りを楽しんで頂きますが、それと合わせ心でも楽しんで頂くために音楽と映像を映し出すようにしております。本日この店はジョバンニ様を主賓と決めたようです」
「おー。ジョバンニ君。君は幸せ者だ。なかなか店に選んでもらえることはないのだぞ。つまりだな、吾輩はまたも選ばれなかったわけだ。残念。残念。とても残念である」
「まあまあ、リー様。今度いらした時はこの店もラポ様を選ぶかもしれませんし。それが今度当店に来る楽しみともなりましょう」
「リーは、料理の腕もいいが、話もうまい。さてさてこのキレイに輝いている料理について教えてくれ」
「はい。この魚はレオオス星唯一の泉でとれました魚を当店自慢のソースと一緒に新鮮な野菜に包み込んだものでございます」

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