小説

『最後の料理』NOBUOTTO(『銀河鉄道の夜、注文の多い料理店』)

 扉の前に立ち止まっているジョバンニを見てラポが戻ってきた。
「ラポさん、この部屋にどなたかいるのですか。窓から光が、まるで部屋の中で何か爆発したような凄い光が。中の人は大丈夫なのでしょうか」
 ラポは小さな窓から部屋の中を見ながら言った。
「君は優しいね。ここには私の父がいる。面倒な事に巻き込まれたみたいであるが、まあ、当分は大丈夫だろう」
 「ラポさん。ここはみなさんがいる部屋なんですか」
 ラポは扉をひとつひとつ指しながら言った。
 「うーん。いると言えばいるし、いないと言えばいない。さっき光ったその扉が父。その横が母。こっちの扉は兄。うーん、吾輩とは違って実に性格の悪い兄である。そして、その横が妹。彼女は我が一族で最も心が美しく容姿も申し分ない。とにかく覚えるのに苦労するほどの沢山の我が宇宙海賊ファミリーが扉の向こうから時空を超えて生きている。説明はこれでいいかね。では先に進もう」
 廊下の突き当りの部屋にラポが入っていった。ジョバンニも部屋に入る。この部屋の天井も硝子ばりで宇宙が広がっている。部屋の壁はなめらかなカーブを描いて繋がっていた。そしてその壁一面に半球の大きなレンズが並んでいた。ジョバンニは学校で習ったトンボの複眼のようだと思った。どの半球にも何かが映し出されているようである。
 「さて、ここが我が室、船長室である」
 「さーて、ご覧あれ、本日のディナータイムは」と言ってラポは壁にある半球をひとつ指さした。するとその半球からの映像が映し出された。
 そこには、町が写っていた。いや、ジョバンニは町だと思った。道がある。建物がある。自分の町とは比べ物にならないほど大きい建物が並んでいて広い道が交差している。空中には何かが飛んでいる。町の向こうには小高い丘がありそこに塔が立っていた。銀河鉄道でみた三角標の親玉のような巨大な塔であった。
 「レオニオス」
 「レオニオス?」
 「そう、レオ二オス。今の宇宙で、今?昔?いつ?とにかく宇宙一美味しいディナーが堪能できる星だ。目指すはここだジョバンニ君」
 「どうして僕の名前を・・・」
 ラポは強く床を数回踏み鳴らした。すると船が激しく揺れた。天井の向こうの星が一斉に流れ始めた。宇宙船がもの凄いスピードで飛び始めたようである。

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