「気に入った家具が見つかって、よかったですね」
「はい!」
人生で、こんなに元気のいい返事ができたのは、初めてかもしれない。
***
家に物が増えていくたびに、私の心には余裕ができた。相変わらず、両親は私の帰りを待って、冷えた夕食を食べているが、そんなのは、彼らの自業自得だ。だけど、そんな気持ちをおくびにも出さず、申し訳なさそうに遅く帰宅する。
そして、休日には、必要なものを買いに外出する。華さんをはじめ、友人たちには感謝してもし足りない。
***
休日の夜、私は両親の元で過ごす。この日だけは確実に温かい夕飯にありつけるので、父も母も機嫌が悪くならない。
「今日はね、カレーを作ったの」
得意満面な母の顔は、激変した。カレーを一口食べた父が、ぼそりと放った一言によって。
「辛さが足りない」
「……お父さんに合わせたんじゃないわ。麻琴ちゃんの好きな味にしたのよ」
とんだ責任転換である。私は、母お手製の甘いカレーに、ぎょっとしているのに。
だが、母は強気な態度で、私を見た。
「お月さまのカレー。麻琴ちゃん好きでしょ?」
「えっと……」
確かに好きだった。でもそれも、子どもの時の話だ。
「俺は好かん。辛くしろ」
「麻琴ちゃんとお母さんにとっては、これがおいしいのよ。ね?」
小首をかしげている、小柄な母。顔は笑っているが、口元は引きつっている。
私はもう成人しているし、今ではお昼に激辛カレーを食べることもある。甘いカレーなんて、物足りない―――つらつらと言葉は浮かぶけど、結局、私はカレーと一緒にそれを飲み込んだ。
「懐かしい味ですね」