小説

『すてきなお家』逢坂一加(『みにくいあひるの子』)

 ―――ミニスカを履く女の子と付き合うとだらしなくなるとか、ボーイッシュな女の子は女らしさがないとか、化粧なんてするのはバカとか、成人しているのにヒールのない靴を履くのは社会人失格とか、私のガールフレンドにまで、それはそれはご立派な注文を付けていましたよね。
 ―――ずっと疑問だったんですけど、お父さんにとって「みっともなくない」て、どういう状態なんです?
 ―――お父さん。私ね、疲れちゃったんです。
 ―――あれはダメ、これは違う。でも、正解はない。そんな風に「みっともなくないように」いるの、疲れちゃったんです。
 ―――訳の分からないですか。はあ。そうですか。じゃあ、仕方ないですね。
 ―――私のことは、もう、息子と思わないでください。その方が楽ですよ。
 ―――帰りません。帰りたくないです。貴方だけが居心地がいいそこは、私の家じゃありませんから。
 ―――今までお世話になりました。さようなら。

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