小説

『すてきなお家』逢坂一加(『みにくいあひるの子』)

「そうです」
 私は力強くうなずいた。父は、食事に文句は言わない。母が失敗した料理も、気に入らない味付けもきちんと完食する。いかにも不味そうな表情で、掻き込むようにして。
「それでいて、食事は家族そろわないと、というのが母の信条なんです」
「負のスパイラルだね。息苦しーい」
 もう一度言ったところで、電車が止まった。学生やら家族連れが乗り込んできて、社内が混んできた。華さんは、ぶらぶらさせていた足をきちんとそろえた。
「あ。よかったら、どうぞ」
 だけではなく、小さい子を二人連れたお母さんを、席へ誘導した。つられるように、私も立ち上がる。遠慮するお母さんに、華さんは「自分たちは次で降りるから」と笑顔で押し切った。七歳くらいの色違いの服を着た双子ちゃんは、お義母さんを見習って、私達にお辞儀をしてくれた。
 譲ってよかったな、と思う一方で、華さんはすごいな、と改めて思った。

 家具のアウトレットセールに、私は初めて来た。出品には傷が少なく、それでいて新品よりも安いのだから、ありがたい。特に、今日、私が求めているような家具には。
 私達は、食器棚が置かれているスペースへ向かった。頭ではわかっていたが、食器棚と一口に言っても、実にさまざまなデザインのものがあった。
「おー! これ、ドラマで見たことある!」
 華さんが指さしたのは、小豆色に白いラインが入ったレトロな色合いだった。細長い見た目に、引き戸や引き出しがあって、賑やかなデザインだ。
 歩きながら、私は自分好みの食器棚を探した。部屋に入る大きさであることはもちろんのこと、観音開きと引き出しだけ。観音開きの部分は全面ガラス張り。そこに飾るのは、安くっても、お気に入りの食器。
 散々歩き回り、持参したメジャーで測って、ようやく目当ての食器棚を見つけた。
 というか、もう、一目見た時から「これだ!」と思った。これだ! これしかない!!
「もう少ししたら、ノリタケのティーセットとか、バカラグラスとか、ヴェネチアン・グラスも入れたいなあ」
「お皿はやっぱり、マイセンにしちゃいます?」 
 配送手配をしながら、華さんもノリノリになった。頭の上にキノコでも生えてそうなくらいに浮かれている私を、店員はにこやかに接客した。

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