小説

『すてきなお家』逢坂一加(『みにくいあひるの子』)

「いくつぐらいなのかしら~? でも、みっともない格好する人だもの、絶対に独身よ。モテなさそうだもん」
 私の脳裏に、家のクローゼットの洋服がよぎった。
 TVの彼女と違って、私が好きなのは甘ロリ、と呼ばれる類の服装だ。ピンクや白、それかパステルカラーで構成されている。だけど、フリルやリボン、レースは彼女に負けず劣らず、多い。アンティークドールが着ているような、素敵な服。
「へえ、結構、高学歴なんだぁ。お勉強頑張ったのね~。でも、頭よくっても、あの格好はみっともないわぁ。子どももいなさそうだし」
 私は、一度だけ、母に冷ややかな視線を投げた。
 この人が、私の家のクローゼットを見たら、きっと、今よりもっとひどいことを言うだろう。私の好きな、素敵なもの。それをバカにして、私をバカにして、私をいじめるんだろう。ねえ、母さん、もしかして、昔、人をいじめたことがあるの? だからそんなに、TVのゴスロリ教授をバカにするの?
 けれど、母は私の視線に気づくことはなかった。ひしきり、クイズ番組に出ている人たちの欠点をあげつらい、カレーを食べ終えた。
「麻琴ちゃん。洗い物早く済ませたいから、早く食べちゃってね」
「……わかりました」
 冷めてしまった甘いカレーを、私は苦いコーヒーとともに流し込んだ。

***

 お風呂から上げると、洗濯物をたたんでいる母に声をかけられた。
「ねえ、麻琴ちゃん。ハンカチ出し忘れてない?」
「いいえ?」
「そお? 前にあげた水色のハンカチ、この頃見てない気がするのよねぇ」
 どこにやったっけ……と記憶を手繰り寄せているうちに思い出した。家だ。家に持って行ったのだ。デザインは気に入っていたから。
「最近、使っていないだけですよ」
「気に入らなくなっちゃったの?」
 こちらを見ずに言うくせに、母の背中からは刺々しいオーラが見える。ここで頷いたら、さらに悪化しそうだ。
 面倒くせーなぁ。

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