小説

『雨よ、雨よ』高橋惠利子(『Historien om en Moder』)

 残酷な黒い赤が飛び散っていることの、覚悟だ。
「ぼうやっ」
 たどり着いたとき、三匹の子猫たちは無残な塊と化していた。頭上では黒く大きな鳥が、肉塊を足とくちばしをつかって器用についばんでいた。
 猫は呆然と鳥を見上げた。瞬間、目が合う。
 その目は、ぎょろりと大きく飛び出している。いくら威嚇をしても動じない鳥は、猫に敗北と屈辱を植えつけた。
 猫は地面に視線を落とした。
 点々と続く赤の雫の先に、ころりと転がっている小さな丸があった。目が突付きまわされ、潰され、舌を出したままの、汚れた、それは、自分の。
「―――っ」
 虚ろな黒い目がこちらを見つめている。
 母猫は動けなかった。
 今すぐにでも駆け寄りたい衝動があるのに、我が子の頭上を飛び回る黒い鳥は、いやらしくこちらを見下す。その目には侮蔑の色が滲んでいた。母猫の勇気のなさを蔑んでいた。
 脚がすくんだ。震えて一歩が出ない。
 尚も鳥は子猫をついばんでいる。
 赤い液体が目の前を飛び回る。
 猫は一切をあきらめた。どうして動けよう。

4

 雨の匂いがした。
 花は待っている。全身を潤し、自分を艶やかに演出するための小道具を。
 これから成長していくための糧を。

 夢を――見た。
 動悸が治まらない。猫は低くうめく。
「どうして息子たちは召されてしまったのでしょう」

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