小説

『雨よ、雨よ』高橋惠利子(『Historien om en Moder』)

 腹には我が子の命が。
 込みあがるものは、温かい感情だった。猫はゆっくりゆっくりと歩き出す。
「あの方は当然のことをしているだけさ。つまり、芽を育て、間引きをし、水をやって肥料をやる。花柄を摘み、枯れた葉を取り除いてやるのさ。それがたとえ命の花であっても、花に変わりはないだろう? 少々、世話に対するセンスは悪いがね。神だ、死神だといわれる所以はあっても自覚はないだろうさ。
 だれが彼を慈悲深いと言ったんだい? ああ、花にかける愛情は果てしないさ」
神を疑ってはならない、老婆はもう一度言った。
 神の愛を疑ってはならないのだ。
 たとえそれが求める種類の愛とは違っても。
 そしてそれは、そこかしこに散らばっている。
死神は花を引き抜く。
しかしながら、命の花を育て咲かせるのもまた死神ではなかったか。

 
猫はいとおしさと切なさと、そしてこれから生まれてくるわが子のために、今一度空に向かってにゃあと鳴いた。

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