小説

『嘘発見電波が流れた日』西橋京佑(『ピノッキオの冒険』)

「そんなことないって」
「ニュース、見ただろ?実証実験終わったって。なんとなくだけど、分かるんだよ。なんかあるんだろ?嫌なんだよ、誰かが困っているのをわかっているのに見逃すのって」
 こんな世の中だろ、嘘言っているわけじゃないのわかるよね?と、コオロギは息継ぎしないみたいに一気に喋った。僕は、何にも言わなかった。コオロギもしばらく黙っていたが、しびれを切らしてもう一度尋ねた。
「なんか、あったんだろって?」
 僕はもうどうでも良くなってきていた。どうせ思考犯罪扱いされるなら、言うのも言わないのも変わらないじゃないか。
「わかった。明日、昼前って何してる?11時に、学校の門まできてよ。チャリで来てくれたほうがいいな」
 おっけー、とコオロギは一言だけ喋って電話を切った。僕はそのままソファにゴロンと寝転び、朝まで寝る覚悟でもう一度目を瞑った。大した世の中だよな、まったく。

 翌朝、僕はスウェットに適当なジャンパーを羽織って自転車に乗った。太陽は出ていたが、なんとなく日陰が多いような日だった。
 学校の前に着くと、コオロギは既にいた。
「はやいね」
「コオロギこそ、早すぎない?まだ10分前だけど」
 まあいいじゃん、とコオロギは少し右の口角を上げた。
「ここにいてもしょうがないから、移動するけどいい?」
「移動って、どこいくの?」
 そう言われるが早いか、僕は既にコオロギに背を向けて走り始めていた。コオロギもすぐに後に続いた。僕らは通りに出て右に曲がると、柔道場の前も人口水路の桜並木も一気に駆け抜けた。
「ねえ!どこまでいくのってば!」
 左手にスーパーが見え始めたときに、コオロギは少し大きな声で尋ねた。
「もう少し!そのままついてきて!」
 僕は少し後ろを振り向いておんなじように叫んだ。実際、あと2.3分で着くから止まる気はさらさらなかった。横断歩道を渡って反対側の道路に渡り、そのまま少し走らせてから僕は病院の前で止まった。
「行くところって、ここ?」

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