小説

『嘘発見電波が流れた日』西橋京佑(『ピノッキオの冒険』)

 真っ昼間から、国民放送が田植えのお婆さんを延々流している国がどこにあるんだよ…と思いながらチャンネルを回すも、どの番組も普段の編成とは違っているようだった。ノーベル賞の論文を頭から朗読する番組、虫の巣をただ接写したドキュメンタリーのような番組、延々と因数分解だけをしている番組。
「なんだよこれ…ニュースもバラエティも、ぜんぶ不確かだからダメってこと?」
 頭がクラクラして、僕はソファにドサッと寝転んだ。

 玄関が閉まる音で、僕は目が覚めた。
「あれ?帰ってたの?」
 兄が玄関先でごそごそ靴を脱いでいた。
「ああ、おかえり。午後から自宅学習だって言うから。そっちは?」
「まあおんなじ感じ。みんな焦りまくっていてさ、講義どころじゃないー!って教授が切れちゃって。それよりも、帰りの電車すごい混んでたんだけどさ、なんでかわかる?なんと、時刻表がないんだよ、駅に。もうみんな怒り狂ってて。でもさ、電車は遅れますからって、当たり前の顔をして駅員も言うんだもんな。参っちゃうよね」
 こう言うときだけ対応が早いんだよなあ、とボヤきながら台所で手を洗っていた。
「こっちもすごいよ。国営放送、ここ何時間も婆さんの田植えライヴだよ。田植えって、こんな植えてるんだな、一日に」
「ほんとかよ。それ用にとりあえず植えさせてるんじゃなくて?なんも流せないから、とかさ」
 そんなことあるかなあ?と、僕は首を傾げながらまたチャンネルを回した。相変わらず、どの番組も似たような静的なものばかりで、退屈の極みとはまさにこのことだった。
「メール、きてるよ」
 兄が僕の携帯を指差して言った。
「あー、連絡網だ。『明日はとりあえず来い、とのこと。先生から連絡あった。ヒロコが言ってた。次に回して。』なんかこう、もうちょっと高校生なら文章うまく作れないもんかな」
「連絡網だからだろ?要件伝わればいいんじゃん」
「そうだけど…なにしてる?とか、大変だよなーとか、そういう雑談なんかもしないもんかね」
「下手なこと言えないんでしょ、こんなときだし」
 うーん、と言いながら次のヤマシタに連絡網を回した。「テレビ、変なのばっかりだね」を一言加えておいた。

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