小説

『嘘発見電波が流れた日』西橋京佑(『ピノッキオの冒険』)

「きょうも、自習で!」

 帰り道、僕は”コオロギ”と一緒に帰った。
 彼がそう呼んでくれというから”コオロギ”と呼んでいたけど、僕は正直あんまりその呼び名が好きじゃなかった。
「変な世の中になったよねえ。思考犯罪?こわいよねえ」
 そうだね、と僕はぼんやり相槌を打った。目立ちたがりのことは、もっと好きじゃなかった。
「ねえ、コオロギはさ、あいつの言ったことどこまで信じてる?」
「わかんない。目立ちたがりの言うことだからね、話は8割盛られているかもしれない、とは思ってはいるよ」
 きみは?とコオロギは僕をみた。
「思考犯罪なんて、バカげてる。そんなんじゃ、世の中みんな犯罪者みたいなもんだ」
「そうかもね」
 コオロギはカラカラと笑った。
「でもさ、僕はそのことについては信じているよ。言った通りではないけど、少しはね」
「どういう意味?」
「少なくとも、犯罪なんてのは衝動的に起こるわけないからね。強い思い込みは、人の行動に大きく作用するんだ。何度も、憎い相手を頭の中で殺している奴がいるとするでしょ?きっかけがなんであれ、バーンっという衝撃があればそいつはその通りのことをやってのけるんだよ。既に何回も想定した手立てでさ」
「でも、あいつが言ってたのはもっとライトな話だったじゃん。悪いことじゃなくても、事実と違うことを考えればダメだって」
「だからさ、言った通りではないけどって言ったでしょ。将来なにになりたいとか、そういうのは話が違うよ。人を傷つけたり、生死に関わっていたりしなければ、そこは人の自由なんじゃないかな」
「そうか…人の、自由ね…」
 コオロギは僕の顔を不思議そうに見つめた。
「きみ、大丈夫?なんかあるなら相談にのるけど?」
 いや、とだけ言って僕はコオロギに別れを告げた。
「明日、学校あるかどうか連絡きたら教えてよ。コオロギの方がはやいでしょ、連絡網」
 ああ、と言ってコオロギは片手をあげた。僕は既に背を向けて歩き始めていた。
「なんかあるなら言えよ!ロクなこと、考えるもんじゃないと思うよ。なんだか分かんないけど、こんな世の中だし、嘘だけはつくなよ!」

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