小説

『嘘発見電波が流れた日』西橋京佑(『ピノッキオの冒険』)

 うるさい。背中から聞こえてくるコオロギの声を、聞こえないフリで僕は歩き続けた。

 家に帰ると、思考犯罪の逮捕者が全国で50人を超えたというニュースがあった。目立ちたがりが鼻の穴を膨らまして講釈を垂れていたその時間に、どうやら実証実験は完了していたようだ。ただ、そのほとんどは、コオロギの言う通り、人を騙したり殺そうとしたり、他人が関わっているものばかりだった。
僕はゴロンとソファに寝転んで天井を見た。部屋は真っ暗で、青さと寒さが入り混じる。テレビはニュースが終わって、また昨日と似たような田植えの映像を流し始めた。
「生きるのは辛いなあ」
 僕は静かに目を瞑る。明るい日差しがカーテン越しに差し込んで、右瞼の裏側だけが赤く見えた。

 携帯がピリピリとなって僕は目を覚ました。いつの間に寝ていたから、いまが今日なのか明日なのかよく分からないまま電話に出た。
「もしもし」
 コオロギだけど、と電話は応える。
「ああ、コオロギか。明日のこと?何か連絡あった?」
「明日は土曜日だよ。学校なんてもともとないよ」
「そうか。そうだった」
 僕は身を起こしてソファに座りなおした。少しだけ寝すぎたのか、頭が痛くなっていた。コオロギは、そうだよ、と言ったきり喋らなかった。
「電話、どしたの?」
 ああ、とコオロギはまた数秒だまってから喋り始めた。
「昼のこと、少し気になって。なんか良くないこと考えてるんじゃないかなって思ったわけ」
 良くないこと、ね。
「そんなことはないけど…」
「いや、なんかあるだろ?普段あんなに人の話にケチつけるようなやつじゃないじゃん。思考犯罪のこと、そんなに気にする理由ってなんなの?」
 コオロギは珍しく語気を強めていた。なんでそんなに構うんだろうか?

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