小説

『嘘発見電波が流れた日』西橋京佑(『ピノッキオの冒険』)

「えーっと、みんないるか?」
 いまーす、と学級委員のヒロコが右手を上げながら発言した。
「よし、じゃあ今から大事な話をするから、みんなよく聞いていてな」
 先生はなんとなく焦り気味だった。クラスみんなの顔を見回して、ため息をついてから切り出した。
「みんなも昨日のニュース、見たと思う。嘘発見電波のことだ。あれが流れ始めたことで、今日学校に通達が出た」
 クラスはシーンとしていた。
「今日から、歴史の授業はなくなります。日本史も、世界史もどっちも。それから、倫理も。これは努力措置だけど」
 なんで!と、クラスの何人かが声をあげた。僕も、三国志が好きだったから世界史がなくなるのは御免だった。
「嘘発見電波のせいだ。それで、教育方針も確かなものしか教えてはならないと決まったんだ」
 目立ちたがりが、ほら見ろとほくそ笑んでいた。
「って言うことは、全部嘘だったわけ?弁慶も?」
 まじかよー、と弁慶好きのタケシが崩れ落ちた。泣き所をやられたな、とタカヒロと僕は笑い合った。
「そういうわけでもない。確かなものではないから、研究者が100%本当だと突き詰められるものだけが口に出してよくなったんだ。仮説じゃダメなんだ」

 その午後から、やれ教科書の回収だ、時間割の練り直しで緊急職員会議が入っただで、学校中はてんやわんやになった。クラスに残された僕らはそのまま暫く席に沈黙して座っていたが、先生が慌てた髪の毛で午後の授業は自宅学習だと告げに戻るなり、僕らは一目散に教室から飛び出して帰った。とにかく状況が整理されるまで誰とも喋らないのが得策ではないかと、ヒデオがボソッと呟いたからだ。ヒデオは、クラスで一番頭が良かった。と言っても、日本史とか世界史とか、そういうのがある授業の中でだが。
 家に帰るとすぐに、僕は普段見もしない国民放送にチャンネルを合わせた。何かヒントがあるかもしれない。しかし、そこにはお婆さんが延々と農作業をしている姿だけが流れ続けていた。速報が入るのではと10分ぐらいぼんやり眺めていたが、お婆さんは変わらずのんびりと田植えをしていた。
「あれ?」
 ふと、右上にうっすら文字が浮かんでいるのが見えた。
「L… I…えっ”LIVE”!?これ、生なの?」

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