小説

『嘘発見電波が流れた日』西橋京佑(『ピノッキオの冒険』)

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 政府の通達によって、この世の中では嘘が禁止になった。
 正確に言うと、ある企業の嘘発見器の性能が飛躍的に向上したことから、犯罪検挙率を高めるためにその技術を国が全面的に採用することになったからだ。細かいことはよくわからないけど、放送用電波や衛星機からの電波にその嘘発見器の技術を掛け合わせ、人をだまくらかしている悪人にある身体的特徴が現れるような特殊光線か何かをあてる、らしい。らしい、と言うのは、それがなんなのかよくわからないからだ。
 とにかく、嘘をつくとすぐわかるようになってしまったと言うことは確かだ。嘘つきな訳ではないけど、なんだか生きづらい世の中になった。

 そのニュースが流れた翌日は、学校でもその話題で持ちきりだった。特に、僕のクラスには捜査一課の親父がいる目立ちたがり野郎がいたために、登校するなり「聞けよ!」と興奮気味にそいつの机の周りに連れていかれ、ようやくこの日がきたと言わんばかりに鼻の穴を膨らませて講釈を垂れ始めるというイベントまであった。
「親父が言うにはさ…おい、聞こえてる?」
 聞こえてるよ、とウンザリした顔を見せないように一番遠くの僕は頷いた。
「よし。親父が言うには、だよ?今回の電波はとにかくすごいらしいんだ。その原理がどうなってるのか内部の人たちもよく分かってないらしいんだけどさ、とにかく嘘をついたら一発でわかっちゃうわけ。なんでかわかる?」
「体がどうかなっちゃうんだろ?」
 と、メガネのタカヒロが相槌を打った。
「そう、そのどうかなっちゃうのが、すごいわけ。これ絶対言っちゃダメだぜ?」
 目立ちたがりは念を押すように、机の周りに並ぶ僕ら一人一人の顔を指差した。
「鼻がさ、すんごく大きくなるらしいわけ。と言うよりも、すごく細長く伸びるらしいんだよ。漫画みたいに、さ」
 僕らはざわついた。また始まったのか、こいつの目立ちたがりの虚言癖。
「嘘じゃない。そもそも、あの電波が流れ始めてるんだから、いきなし嘘つくわけないだろ?」
 目立ちたがりは、息もつかずに喋り続けた。
「鼻が伸びたやつは、否応なしに警察にしょっぴかれて事情を聞かれるんだってよ。度合いはどうあれ、そいつが嘘をついているのは分かっているからさ。0か1かなら、連れて行っちまったほうが早いってわけ」
 そんなアホな、と僕らは机から離れて自分の席に戻った。先生がちょうど教室に入ってきたのだ。僕はタカヒロと「なんだかなあ」と、二言三言会話を交わしながら自分の席に戻った。

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