小説

『嘘発見電波が流れた日』西橋京佑(『ピノッキオの冒険』)

 翌日、目立ちたがりは新たな情報を仕入れたと息巻いていた。いつもは寄り付かない女子たちも、こういう状況だからだろうか、輪を二重にして奴の話に聞き入っていた。
「続々と逮捕者がでているらしいよ。しかも、ありとあらゆる罪名で!」
 テレビでやってたじゃん、と女子の一人が呟いた。実際、殺人罪・詐欺罪・窃盗罪などなど、隠れ蓑をきていたありとあらゆる罪人たちがごっそり逮捕され始めていたのだ。
「そう、そこまではね」
 待ってました、と目立ちたがりはにやっと笑った。こいつのこういうところ、本当に嫌いだ。
「その罪名ってのがすごいわけ。思考犯罪っていうものなんだけどさ。要は、考えているだけでもダメなんだって」
「は?」
 と、思わず僕は声が漏れた。なぜだか教室がシンとなっていた時で、僕の声はやけに目立ってしまった。
「どうしたの?なんか、まずいことでもあるわけぇ?」
 ユキがニヤニヤしながら詰め寄ってきた。そんなわけないだろ、と右手を振ってみんなの視線をはねのけた。嘘くさく聞こえないように、少し咳払いをしてから僕は目立ちたがりに向き直った。
「考えただけでって、どういうこと?」
「うん、これは実証中だからって前置きはあるし、考えているだけでっていうのもちょっと違うんだけど。簡単に言えば、誰かをだまそうと企むとするでしょ?それがその通りにならなくても、企てることだけで軽犯罪として認められるんだよ」
「それって、前からそういう罪なかったっけ?よくわかんないけど」
 タカヒロが眉間にしわを寄せながら言った。
「それだったら、わざわざみんなに言わないよ!そんなんじゃなくてさ、考えて、それをやらないと犯罪になるんだって」
「…ぜぇんぜん、意味わかんないんですけどぉ」
 ユキが深刻な顔をして言った。
「だからね。何かしたいって思うじゃん?それをしなかったら、それは嘘だと見做されるってわけ。簡単に言えばだよ」
「そんなの、捕まるやつめっちゃいるじゃん絶対!」
「そうなんだよ。でも、思考まで読み取るにはもう少し電波技術があがる必要があるんだって。実証実験だし、対象地域も狭めてるらしいから、よっぽど運が悪くなければ平気みたいだよ」
 目立ちたがりがそう言うと同時に、先生がドアから顔だけ出して叫んだ。

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