いずれ、デイサービスを受ける祖母の年金には手を付けられない。
母のパートで稼ぐ金は、今は離れたところで暮らす大学生の弟の学費と生活費に当てられている。
…だからその分、家族の生活費は私が稼がねばならないのだ。
しかし、本来生活費の稼ぎ手である私が非常勤である以上、今の家の生活水準は最悪で、私がまだ臨時職員をしていたころは多少の余裕はあったものの、今では私の貯金の切り崩しの方が目立っていた。
…働かねば、働かねばならないのだ。
なんとしても、せめてもう少し稼げる場所にはいかなければ…。
そうして、必死に目をつむっていたためだろうか…いつしか私の意識は枕の下へと沈んでいった…。
…風が吹き上がると、巻き上がる砂塵が襟や袖に入りこむ。
砂に足がめりこみ、前に進む速度はカメのように遅かった。
しかし、砂山を夢中で上る私はそんなことはまったく気にならない。
後ろを振り返ると、もう斜面の三分の二は歩いたらしく、広大な砂漠が背後に広がっている。私は、前を向くとまた山を上った。
…あともう少し、あともうちょっとで山を越えられる…。
そうして、私が頂上にたどりつく寸前、ふいにけたたましい音が砂漠の中にこだました…。
目覚ましのベルの音に時計を見ると、時刻は朝の七時になろうという頃だった。
眠い頭をふると、私は朝食を作りに足早に階下へと降りて行く。
朝の食事の支度は私の仕事であり、母はすでにパートに出かけていた。
玄関に置かれたデジタル時計は、今日が土曜であることを知らせていた。
そう、今日は休日…だが、こういうときにこそ急がなければならない。
さもないと…。
ガシャン
何かの割れる音がして、私は急いで居間の引き戸を開ける。