小説

『砂塵のまどろみ』化野生姜(『眠い町』『砂男』)

『…ああ、市役所の人か。役所はダメなんだよね。企業と考えが違うから。』
『おばあちゃんがいるんだって?大丈夫?ひとりにしたらダメじゃない?』
『うちは経験者しか応募してないんだよね。きみのその年齢で半年だけなんて経験のうちに入らないから…それに、短い期間の職務経歴も多いね。いろんな仕事をしているのかな?「任期満了」なんて書いているけどさ、正直なところ…自分で辞めちゃったんじゃないの?』

所属で落とされ、家庭環境で落とされ、経験と期間の不足で落とされる。
新人としては若くなく、経験者としては浅すぎる。
介護するためにはお金がいるのに、そのお金を稼ぐくらいなら介護対象の面倒を見ていろと揶揄される社会…もし、それを鵜呑みにするのならば、低賃金の短い今の雇用期間でいったいどうやって家族を養えというのだろうか。

「私、いま何をしているんだろう…。」

ぽつりと、そんな言葉が口をつく。
窓から入ってくる冷気が部屋を満たしていくのがわかった。
吐き気がこみあげ、鈍い痛みが頭部全体を覆っていく。

…そうだ、窓をしめよう。冷たい風は身体に悪いから…。
そうしてベッドにひざをつき、腕をのばそうとしたとき、それは起こった。

ざらり。

ふいに、自分の手が崩れ落ちた。
それは細やかな砂となって、ベッドの上に広がる。
それと同時に、ひどいめまいを感じ、私の意識は反転した…。

…丘を下ると、そこにはいくつも並ぶ土壁の家があった。
どれもが無人であり、風によって大量の砂が中へと吹きこんでいくのが見て取れる。私は重たい身体を動かしながら、その町へと一歩、進もうとした。

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