小説

『砂塵のまどろみ』化野生姜(『眠い町』『砂男』)

明日、弟の迎えに車を出してもらおうとおもっていたのに。
実の弟が大学の教授とそりがあわずに留年させられ、とうとうあきらめて実家に帰って来るという可哀相な状況なのに…。

不思議なことにシーツから外に出た砂は地面には落ちず、そのままキラキラと空中をさまよい、やがて風にながされて消えた。
そのとき、ほんの一瞬だけれど、砂の消えて行く先に砂漠が見えた気がした。
私は、その幻想をふりはらうかのようにシーツをたたむと、思案に暮れた。

…それにしてもどうしたものか、息子はどこに就職する気なのか…。
大学中退で、地方のまともな企業に就けるとは思えない。
家のことはこちらでやるにしても、田舎で就職するためには最低でも車の免許は必要だ…でも、そんな金を息子が捻出できるだろうか…。
そう考えながら腕を見つめ、ふと気がつく。

…いつのまにか、腕に砂が浮かんでいた。
それは、先ほど見た砂漠を思わせるようなキラキラとした輝きをまとっている。

…それにしても、娘はどこにいったのか…。
そうして周りを見渡すも、娘の姿は無い。

…そのとき、どこかで風の吹く音がした…。

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