…そう。できるのは、この状態を維持することだけ。
何しろ、今は高齢化社会なのだ。
ケアを受けるべき人間はこの市だけでも溢れるほどにいる。
「まだ、この家はましな方なのよ。これ以上大変な家だってたくさんあるし、これが普通。わがまま言っちゃあいけないわ…。」
祖母を居間につれていき、台所に戻った私は疲れきった顔の母にそう諭された。
そう、母との会話は、いつもその繰り返し…。
これからも、じっとこの状況に耐えて行く毎日。
私は、次第にがんがんと頭全体に広がっていく激しい痛みをこらえつつ、母の手伝いをする。
そうだ…病院に行く時間はない。病院に行くお金もない。
耐えねばならないのだ、この状態に。
…でも、いつまで?
「魚、焼けたころだから出して。」
…私は、母に言われるままに焼いた魚をグリルから出そうとする。
しかし、グリルの取っ手をつかもうとした瞬間、ふいにひどいめまいを感じ、私はよろけてコンロのふちにつかまった…。
…気がつくと、目の前に砂漠があった。
砂漠はどこまでも広がり、風によって砂が巻き上げられる。
そうして、ひときわ大きな風が吹くと、砂の向こうに何かが見えた。
それは、巨大な砂の山だった。いくつも連なる砂山の丘…。
私はそれにひどく興味を魅かれた。