小説

『砂塵のまどろみ』化野生姜(『眠い町』『砂男』)

そうして、ようやくベッドに腰掛けさせたとき、私は彼女の身体からどこかすえた匂いが漂ってくることに気がついた。

…それは、祖母が一人でトイレに行ったさいに失敗したという証拠…。
私は半ばげんなりとしながらも箪笥へと向かうと、すぐに彼女の着替えを取り出し、服を脱がせる事にした。

…医者には痴呆を治すためには脳を活性させる必要があり、そのためには手足の運動を行い、積極的に文字を書くようにとすすめられていた。

だが、彼女はそれらのことをことごとく「したくない」の一言で拒絶し、少しでも強く言おうものなら決まって子供のように癇癪を起こして黙り込んだ。
そして、放っておくと家の中を勝手に歩き回り、自分のしたいことを勝手にしては失敗をしでかし、その度に黙って後始末を私達に押し付けていく。

母と娘の共働きの家。母のパートが午前までなのと、祖母が食事後にテレビを見ながら昼まで眠るために、ぎりぎり家に大事は起こっていないが、もし何かあったときには覚悟をしなくてはならないとも私は感じていた。

「…しかたがないのよ。年齢もそれくらいだし、どの家だってそうだっていうじゃない。まだ、動こうと思ったときに本人が動けるのが救いなのよ。」

ヘルパーを呼んだり、デイサービスに行かせるという話もあるにはあった。
だが、もとよりそれらの外部の業者に頼むためには決して少なくない額のお金が必要で、その割引のためには医師の診断書と市の審査が必要であった。

だが、幸か不幸か祖母は医者のテストでケアを受ける基準値よりわずかに上をいっており、市の審査員からも、これでは保障をおこなうことはできないと、すでにことわりを入れられていた。

…つまり、今後も祖母の世話は私達だけでしていかなければならないのだ。
祖母がこれから良くなるか、あるいは悪くなるかしない限り。
でも、どうひいき目に見ても祖母がこれ以上良くなる保障はどこにもないように思われた。

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