それを経験も積まないまま突然失い、今後のことがまるで見通せなくなった私は、暗く深い穴に落ちこんだような気分になった。
たった一週間…。
それは、どこの職を探そうにも難しい期間である。
…どうしてこんなことになったのか。なにがいけなかったのであろうか…。
自問自答するその様子に見かねたのだろう、館長は私にやさしくこう言った。
『一応、こちらでも人事課にクギはさしておいた。いくらなんでも理不尽な話だからな。向こうのほうにも自分たちに落ち度はあると言っていたし、今後は君を非常勤の事務として雇うことで話がまとまったよ。…まあ酷なことだとは思うが、どうか私のためだと思ってその仕事に就いてくれ…。』
…そして私は、臨時の司書から急遽市の非常勤職員として市内の部署を点々とすることとなった…。
だが、なれない事務の仕事は失敗と叱責の連続で、人事課の方針で短期間のあいだにめまぐるしく部署を変えられるため、見知らぬ環境になじむには相当の苦労を要した。しかも給料は大幅に削減され、生活費は切り詰めの連続。
当然職場の人間関係をまともに築くこともままならず…次第次第に私は部署の中で孤立していった…。
…どうして、こうなってしまったのか、自分の何がいけなかったのか…。
いつしか私は、過ぎ行く日々の中で幾度もそんな質問を自分に問うようになっていった。
「でもね、あなたは幸せな方なのよ。仕事があって、お金がもらえるだけでもありがたいと思いなさい。」
母にそう言葉をかけられ、私は「はい」と小さく応える。
台所の鍋からは湯気がたち、だしの香りがあたりにたちこめていた。
…そうだ、職があるだけでもありがたいのだ…文句を言うのは贅沢だ。
すると、母はまな板の上で大根を切りながら私に聞いた。