“あなたが犯人で決まり!”
今度はアリスが指差した。
「紅茶に毒を盛って、お皿には解毒剤を仕込んでおいたんでしょ? そうすればあなただけは助かるってわけ」
毒を食らわば皿までと、よく言ったものだとキャロルイス=アリス。自信満々に推論語る、ついでに紅茶もグビッと飲んで、菓子を取る手も止まらない。
……紅茶に毒が入ってる? 言葉の矛盾に気付いてと、八田をうかがう視線を辿れば、テーブルの下のピンクと白の、一風変わった猫である。
けれども八田は気付かない。ぐぬぬと大きな拳を握り、帽子を外して頭をかいた。これではさすがに旗色悪し。ポフッと頭に帽子を戻し、ググッと視線を隠してみせる。さらには八田、テーブル叩いてアリスを威圧。バシン! カチャカチャ! 机で跳ねるティーポット。チャポンと紅茶を吐き出した。
「だったら毒入り紅茶を飲んで、その皿を食べてみろ! 君が正しければ証明できるはずだ!」
小さな身体の彼なのに、一体どこから搾り出したか、耳をつんざく大声は、アリスの言葉も押し返す。しかしそれでも気丈な彼女、開き直りも甚だしいわと、八田に負けずの大声で、言い返すのは単なる暴言。女三人集まれば、姦しいなどというけれど、彼女一人で十分である。
「うるさいわね! お皿なんて食べられるはずないじゃない! 馬鹿なの!? あんたみたいなデタラメなのと一緒にしないで!」
「なんだと!」
「なによ!」
罵り合いの、睨み合い。さらにはテーブル踏みしめて、額をこすり火花を散らす。二人の間に生まれる熱は、摩擦熱なのか知恵熱か――デタラメ推理に知恵など無いが、二人は至って大真面目。それがまた中々の肴であるとは誰が言ったか「ごろにゃ~」と、どこからともなく猫五郎、にぼしを齧って二人の茶番に猫の手伸ばす。
「まあまあ、二人とも落ち着くにゃ。そもそも生きているのは二人しかいにゃいんだし、どっちかが犯人なはずにゃ――そういえばさっき、そこのアリスが立ってた木陰に小瓶が落ちてたんだにゃ」
差し出されるはガラスの小瓶。中には青やら赤やらの、二色の錠剤入っているが、毒々しいし身体に悪そう。これを飲んだらたちまちに、身体に異常をきたすだろうこと間違い無しの、薬は八田の手に渡る。
容疑者アリスにしてみれば、こんな猫の手借りたくないが、八田にとっては蜘蛛の糸。天から伸びた救いの手。