小説

『Grimm and Charles』ナカタシュウヘイ(『不思議の国のアリス 赤ずきんちゃん』)

1.

 これはわたしとあなたの参照点。
 見るからに歪んだ月が夜空に浮かんでいたとしても、それは物質として歪んでいるのではなく、ただ視界が定まらないために、月は歪んでいる。こうして最後に二人で並んで月を眺めていたはずが、とあるバグのせいで、わたしとあなたの風景はこうも簡単に崩れてしまっている。
 二人の夢をイメージする力が一致しないのだから、それはごく当然だし、この装置、学習体験型協調訓練機器、グリムアンドキャロルズタイプAの動作が重く、処理が遅いこともまたその原因の一つだった。
 とかくこの機械の説明を簡単にすると二人ひと組で、各々が事前に作り上げた物語をこの機器にインプットさせて、二人の意思疎通を図りながら、意見と感覚の一致を目指すことで学習能力の向上を図るための装置なのだ。
 もしそこで上手くいけば、物語のエンディングはとても素晴らしいものになると先生はいつも言っていた。でも失敗すれば、その反対だ。バグが発生すれば、処理落ちすれば、二人の意見や感覚が一致しなければ、二人どちらか、あるいは一方の成績欄にいい事が書かれない。
 バグなんて、どうせ装置が悪いんでしょと言い訳を発する人もいる。けど、そのバグの発生源がわたしやあなた、あるいはクラスの誰かだってことがわかると、つまりバグの一原因、あからさまに無理な物語を発生させようとするとこの装置のせいではないってことになるので、注意を受ける。
 でもわたしは思うんだけど、二人の人間の主張がぶつからず、すごく平和に、健全に話が進むのってやっぱりちょっと無理があるじゃない。あなたとはすごく仲良しだけど、好きなもの、全部が全部一致するなんてあり得ないし、特に思春期なんて、一致しないことだらけで進んじゃうもんだから、こんなの上手くいきっこないものって言いたくなる。
 先生が言うにはそれはすごく自然なことだけど、それでもきちんと話し合いなさいってことでこの場を収める。まぁいいんだけどね、この授業ぐらいだし、大きく協調って言葉が使われるのは。
 話を戻すと、いつも通りにわたしとあなたはペアを組んで、この学習体験型協調訓練機器、グリムアンドキャロルズタイプAを使った。作文形式で事前になってみたい職業とか、演じてみたいアニメのキャラクターとか、ドラマの登場人物とかをストーリーに盛り込んでおく。
 わたしは赤ずきんになりたかったし、あなたは不思議の国のアリスになりたかったし、わたしとあなたは二人とも、よくあるおとぎ話のヒロインになりたかった。でもさっきも言ったかもしれないけど、この装置の許容量を越えると、つまりお話を盛り込み過ぎると、その分当然バグは増える。一台のコンピューターに二つの演算処理をさせるのだから、ある程度の妥協をしておかないと、つまり事前に打ち合わせしておかないと不自然なことは多くなる。

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