小説

『Grimm and Charles』ナカタシュウヘイ(『不思議の国のアリス 赤ずきんちゃん』)

 だからごく自然な物語を目指しましょうと先生は言う。でも子供って変なことと普通のことを綯い交ぜにしちゃうことってあるでしょう。だから普通に考えて、この夢の共演は変なことが起こりやすくなる。元になった物語のへんてこさとどちらがよりおかしいかは試しに比べてみればいい。
 けど、この物語には他の物語と同様に、始まりと途中と終わりがもちろんある。バグが出なかったのは最初の数秒程度で、あとはかなりの部分でバグだらけだ。こんな間違いだらけの世界の中心をわたしとあなたは今歩こうとしている。
 そもそもこの物語の間違いは、わたしのお祖母さんが狼に飲み込まれなかったことから始まる。祖母がこのポイントで生存している時点、お話に一つ転換配置がなされた場合において赤ずきん、つまりわたしの人生は狂い始めているのだ。
 もちろんあなたの方にも何か間違いが起きたのはわかっている。あなたが地下世界へ転げ落ちる原因となったあのウサギが現れず、夢の世界をうろうろしている最中だ。森の奥深くは興味深く、夢でなら向こうの町にも行けるはずだからとちょっとお姉さんがいない隙にその森へと歩み寄っていく。
 わたしはお祖母さんを見舞うために家から森の向こうへと出かける。お母さんから頼まれたお使いだ。
 「お菓子をひとつと、ぶどう酒ひと瓶。お祖母さんは病気で弱っているけど、これをあげるときっと元気になるでしょう。熱くならないうちにでかけなさい。お外へ出たら、気をつけて、お行儀よくしてね。知らない道に逸れたりなんかしないでね。そんなことで転んだりしたら、せっかくのぶどう酒が割れてしまうもの。おばあさんにあげるものがなくなってしまわないようにね。そしてお祖母さんのお部屋に入っても、おはようございますを忘れないで。入って、いきなり、お部屋の中をきょろきょろ見たりなんかしないでね」
 「わたし、ちゃんと出来るから」わたしはお母さんとそう指切りした。約束だ。
 お祖母さんの家は村から半道離れた森の中にある。
 その道なりの途中で狼さんがこちらへ寄ってくる。何だか酔っ払っているみたいに足取りがおぼつかない。狼さんはちょっと機嫌も良さげに言い寄ってくる。
 「赤ずきんちゃん、こんにちは」狼さんはそう言いました。わたしは狼さんが何をしてくるか知っている。でも下手に警戒心を出すとわたしはお祖母さんの家に着く前に、狼さんに食べられてしまう。そうなるとエンディングでわたしは救い出されずに終わってしまう。だからここは演じよう。騙された振り。礼儀は知っているけど、道には詳しくないって顔をする。たぶん狼さんもわきまえている。だから今は自分がどんなに気分がいいかを、身振りを交え、ついさっき何があったか話してくれる。

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