小説

『新説 不思議のお茶会殺人事件』湯(『不思議の国のアリス』)

 不思議の国の不思議な森の、そのまた不思議なパーティー会場。席につくのはいつものメンバー。代わり映えのない鼠と兎と帽子屋と、三人仲良くナプキン巻いて、紅茶の香りに現をぬかす。
 今日も今日とて、なんでもない日の堂々巡り。テーブルマナーも知ったことかと、自分勝手にあちらこちら。飲んでは食べて、騒いでは寝転がるまである始末。テーブルの上にところ狭しと並んだポットも、彼等に合わせて歌って踊る。
 ときどきパリン! 気になる音も、お気になさらず。
 こんなイカレたお茶会に、来客なんてあるはずない――とは言い切れない。どこからともなく猫が一匹紛れ込み、空席を一つ陣取った。さらには見知らぬ少年少女、白い兎とエプロンドレス。ひょっこり顔出し、指を咥えて眺めていると、三月兎がチラリと目配せ。
「ほらほら、そこの白いの。席はまだ空いてるじゃん? 座んなよ」
 白兎だけを誘う言葉で、紅茶を片手にクイクイ手招き。前に出るのは彼だけだった。ゆらゆら揺れる懐中時計と長い耳。その背を刺すのは少女の視線。視線だけでよかったと、去りゆく彼は胸なでおろす。
 とり残された少女が一人、木陰に隠れて恨めしそうに、涙を浮かべてハンケチ噛み締め、地団太を踏んで悔しがる。これには帽子屋、笑いを堪えて紅茶をすする。少女というより乳飲み子だ。紅茶ではなくミルクはいかがか? 彼の視線は口ほどに、少女を嗤って嫌味を吐いた。少女はプイッとそっぽを向いて、リンゴのほっぺとへの字眉。ここまで言われて怒らないなんて、年頃乙女の名が泣くわ! と、言われてもない嫌味を察し、腕組み“タンッ!”と足ふみ鳴らす。
 ――さてさてさてと。このようにして、合計五人と猫一匹の、たのしいたのしいティーパーティー。少女も数に入るのならば、盗み食いだって許されよう。気のむくままに飲み散らかして、食べ散らかして、「わあわあぎゃあぎゃあ」騒いでいたら、時間が経つのもあっという間で……数刻の後、事件は起きた。
 バタリ、ガシャン! と三月兎。
 カクン、ドサッ! と白兎。
 カクカク……zzz。眠り鼠もテーブルに伏し、動かない。
「キャーッ!」少女の甲高い悲鳴。
「ぎゃぁああ!」イカレ帽子屋もつられて悲鳴。
 それから仲良く「コホン」と咳払い。

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