「なぜ店員たちを虐める」
「この店で働くものたちが信じられぬのです。M屋のアルバイトたちは、みな自分の都合でシフトを埋めていきます。大学生は、サークル、女子会、海外旅行に野外フェス。挙げればキリがありません。フリーターは、面接では毎日シフトに入れると言っていたのに、蓋を開ければバンドの練習があるだとかどうのこうの言い出したかと思えばいつの間にか週に一日二日程度になり、ついぞは辞めていきます。彼ら以外もみな同じです。あくまでアルバイトはアルバイト。都合が悪くなれば出勤もしないし辞めてしまう。ときたま骨のある奴が現れたかと思えば、就職が決まったと言って清々しい顔で新たな道に旅立っていく。私は飽き飽きしているんですよ。お客様、これでも私にアルバイトを信じろと」
メロスはバイトリーダーの言葉を受け、はっ、と笑い飛ばしながら、
「ああ、勿論だ。アルバイトを信じられないのは、お前の心が荒んでいるからだ。お前が誠心誠意向き合っていれば、自ずとアルバイトたちもお前の思う通りに働いてくれるはずだぞ」
メロスの言葉に、バイトリーダーは不服の表情を浮かべ、
「お客様、一体何をおっしゃる。馬鹿馬鹿しくて、言葉も出ない。あなたはここで働いたことがないからそんなことが言えるのです」
その言葉を受け、メロスは大きく息を吸い、覚悟を決めたように話し始める。
「ならば、私がここで働いてやる。もちろんアルバイトとしてだ。いかなる理由があろうとも、ここのM屋の牛丼の味は絶やしてはならぬ。だからもうアルバイトたちを虐めるのはやめろ」
メロスの言葉に、バイトリーダーは大袈裟に嘲笑した。
「何を馬鹿な事を、あなたは見れば平日にスーツを着ているお人だ。ちゃんとした仕事をしているのでしょう? それにその腕時計。ロレックスじゃないですか。平凡なサラリーマンが、そんなに高級な時計を買えるはずがない」
「ああそうだ。これは二年前、ダントツでトップの営業成績をあげたときに支給されたボーナスで買ったものだ」