小説

『歌えメロス』ノリ・ケンゾウ(『走れメロス』)

「なんと、店長まで。すごい力だ。バイトリーダーは、乱心か」
「いいえ、乱心ではござりませぬ。片手間で働く店員たちが許せぬというのです。自分の休みがない、と言って怒るのです。でも根本の原因はバイトリーダーなのです。バイトリーダーが皆を辞めさせなければ、上手くお店は回せるはずなのです」
「それはごもっともだ。許せぬ」
 メロスは激怒した。この馬鹿で、哀れで、強情なバイトリーダーから、この店を守らなければならぬ。愛するM屋を、元のM屋に戻さねば。
「おいアルバイト。今すぐそのバイトリーダーを呼んでこい。私が話をつけてやる」
 その言葉に、終始俯きがちだったアルバイトは、少しだけ顔を上げて言う。
「なんという心優しきお客様。しかしそんなこと、店の人間でないあなたに頼めるはずがありません」
「勘違いするなアルバイト。これはお前のためではない。私自身のためであるぞ」
「ああなんと勇敢な。ではすぐに、御呼びいたします。私ももうこんな生活は耐えられません。来月には、大学生活最後のサークル合宿があります。私はどうしてもそれに行きたい。どうか、名前も知らぬお客様。私とこの店を、救って下さい」
「ああ分かった。お前のサークル合宿に行くだのなんだのは本当に本当にどうでもいいのだが、この際関係ない。お前のそのサークル合宿とやらにも無事に行かせてやるから、早くバイトリーダーを呼んでこい。話はそれからだ」
「かしこまりました」
 感動で目に涙を浮かべ調理場にバイトリーダーを呼びに行くアルバイト。まもなくして現れたバイトリーダー。顔に不敵な笑みを浮かべ、メロスに近づいてくる。
「お客様、御用で」
 客に対するものとは思えぬ程に横柄な態度、メロスの怒りが一層深まる。
「貴様がここのバイトリーダーか」
「さようで」

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