小説

『歌えメロス』ノリ・ケンゾウ(『走れメロス』)

 外はもう日が上がる直前、セリヌンティウスが今にもバイトリーダーに判を押されようとしているところに、メロスがばたばたとM屋に入ってくる。
「待てバイトリーダー!ここにメロスが戻ってきたぞ!」
 その声に、振り向くセリヌンティウスとバイトリーダー。セリヌンティウスの目には涙が浮かんでいる。
「セリヌンティウス、私は君を欺いてしまうところだった。どうか私を殴ってくれないか」
 セリヌンティウスは、涙を溜めて訴えるメロスの頬を思い切り叩いた。
「メロスさん、私のことも殴って下さい。一度だけ、あなたを疑い、あのクソサラリーマンのボケが、何が超一流だ、と暴言を吐いてしまいました」
 意外な程、メタメタに悪口を言われていたことに驚いたメロスは、「何だお前クソニートのくせに、調子に乗んなボケ」と言って、セリヌンティウスの頬を思い切り殴った。そうして涙を流しながら抱き合う二人。二人の固い絆に、バイトリーダーは、
「何と素晴らしい。あなたたちは、私との勝負に勝ったのです。私に人を信じる心を、蘇らせてくれた。どうか私も、仲間に入れてくれませんか」
 こうして、結局メロスだけでなくセリヌンティウスも含め、仲良くM屋で働き始めた三人。活気を取り戻す店内。売上はみるみる上昇。やがて日本一の店舗に。会社から特別ボーナスを貰い、気を良くした三人は綺麗さっぱり店を辞めてしまって、世界一周の旅へと仲良く三人で飛び立って行ったことなど。

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