「おいアルバイト。一体何があったのだ。料理は遅く、店内もどんよりして暗い。これが私の愛するM屋とは思えぬ」
「申し訳ございません」
「いいや違う、アルバイト。私は怒っているのではない。一体ここで何が起きているのか、と聞いているのだ」
「申し訳ございません」
アルバイトは、メロスの幾度の問いかけにも、体を縮こめて謝るだけで、一向に答えようとしない。しかしこれで納得の行くはずのないメロスは、アルバイトの肩を掴んで強く揺すり、もう一度問いつめる。
「聞けアルバイト。私はこの店を本当に愛しているのだ。だからどうしても納得がいかない。この変わり果てたM屋の姿。雰囲気。一体、誰の仕業なのだ」
メロスの必死の訴えに、少し心を動かされたか。アルバイトは震える唇を懸命に動かし、ぽつりぽつりと話し始めた。
「バイトリーダーは、店員を虐めます」
「なぜ虐めるのだ」
「皆が、仕事に熱心でないと言うのです。誰もが都合の良いように働き、協力的でないと」
「ふむ。ではそのバイトリーダーとやらは、たくさんの店員を辞めさせたか」
「ええ。もう何人も」
「なるほど。それがこの人手不足の原因か」
「はい。今では、アルバイトはこの私しかおりませぬ。最初に辞めさせられたのは、私と同じ大学で同じテニスサークルに所属している山口くんで、バイトリーダーの執拗な出勤要請に耐えきれず辞めました。それからフリーターでバンドマンだった岡田さんは、連日浴びせられるバイトリーダーの罵声で鬱病に。中国からの留学生であったリンさんは、バイトリーダーの早口で捲し立てる指示がまったく聞き取れず、早々に日本語を諦め、帰国しました。この店で店長を任されていた佐伯さんも、バイトリーダーの正社員に対する嫉妬からか毎日のようにいびられ、辞めてしまいました。他にももう十人以上がバイトリーダーの手によって辞めていきました」