それから一月が立ったころ、知念とかねは荷物を背負いながら、細い道を歩いていた。まだ陽は登り切ってはいない。道ばたの露が二人の足下をぬらした。低い石の道しるべが草むらに立って、大きな道とぶつかった。このときを恐れながらも、かねと知念は待っていたのだ。二人の足は止まった。息を止めたまま、顔を見合わせた。知念の目から大きな涙がこぼれ落ちた。かねの目も潤んでいた。黙ったまま見つめ合っていたが、どちらともなく互いに両手を握りあった。
「おかねさん。元気で。」
「知念さんも元気で。」かねには初めてながす人との別れの涙だった。が顔はキラキラと朝日を受けて輝いていた。
知念は右手の大きな道を。かねは今までの細い道の続きを、懐には鏡と櫛を入れて、尼寺を目指して歩いて行った。