小説

『おとぎサポート』広都悠里(『一寸法師』)

 標、あたりを見回す。
「ええええ!なに、この人だかり」
「人だかりじゃなくて、ここは、舞台」
「ぶ、舞台?……って何だこれ?」
 オレの書いたネタ帳を棒読みし、頬をゆるめることもなくノートを最後まで読み終えると真顔で標が聞いた。ネタ帳なのに一ミリも笑われないと傷つく。
「だって……サポートしてくれるって言ったじゃないか」
「漫才のコンビを組むとは言っていません」
「相方を探すのって難しいんだよ。正直、ぴんとくるやつにこれまでで会ったことがなかったし、誰にも漫才をやりたいって言ったことはなかったんだ。だけど、この間、初めて標君と話をした時に自然に人が集まってきていただろう?」
「あの時はびっくりしました」
「普通に話していただけなのに拍手までもらっちゃって」
 白井結花の笑顔をもっと見たくなった。
 クラスの女子や男子に「いつから標君とあんなに仲がよかったの?」「コンビ組んだなんて知らなかった」「よくモノマネとか一発ギャグやってるけど、漫才の方がいいんじゃね?」「おもしろかったよ」「超笑えた」次々に言われてなんだかカチッとスイッチが入っちゃった。
 もしかして、イケるんじゃない?
 ただ話をしていただけなのに、足を止めて聞いてしまうほど面白かっただなんて。それなら、本気を出したらイケるんじゃないか?
 簡単なことじゃない。
 ばかな夢だと笑われるかもしれない。
 でも、やらないで後悔するより、やって後悔する方がいい。
 もっと大きな夢を持て、と本気で言うおまえとなら、やれそうな気がする。
「標君、頼む。オレとコンビを組んでくれ」
 オレは頭を下げた。
「たしかに僕は夢をサポートするのが役目です。でもそれは裏方でということであって、あくまでもサポート、表に出るのは趣旨に反します」

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